今回は、前回に続きお灸のお話をします。
お灸の種類としては、有痕灸と無痕灸の二つに大別されます。一般に艾(もぐさ)を揉んで、直にすえるお灸は、有痕灸と呼ばれるものです。これは有痕の字のごとく、灸痕を残す方法です。もう一つの無痕灸は、灸痕を、残さないように、また、熱感を半減させることを目的とする灸法で、火傷が、起こらず、やわらかな温熱刺激を与えることができます。
有痕灸で皆様が知っているのは、透熱灸と言われるものです。これは、艾を揉んで直に皮膚にすえるものですが、大きさや、硬さについては、あまり気にしてはないのでしょうか?
まずは、大きさですが、大きくても米粒ぐらいがよいのですが、できればその半分ぐらいの大きさがあまり熱くなく、心地よい熱さになります。もう一つ大事なのは、艾を揉む硬さです。あまり強く揉むと、熱くなり易く、柔らかく揉みすぎると、艾は上手く固まりません力加減が大事です。
もう一つの無痕灸ですが、これは皆様がよく知っているせんねん灸などがあります。これは、皮膚と艾の間になにか挟んで、艾を燃やす隔物灸や、器機的に温熱を与えるものがあります。よく知られているのが、にんにくをスライスしたものを皮膚との間に挟んだり、ビワの葉を挟んだりするのが有名です。こうして皮膚に直接艾を燃やして痕を残さないのが無痕灸と言います。
お灸は、昔から日本人にとても好まれていました。松尾芭蕉が奥の細道に旅する時も、足にお灸をすえて、歩いていたといわれます。しかしこの艾も日本で危機を迎えたときが有ります。それは抗生物質ペニシリンの発見と、GHQによる艾の販売禁止令でした。ペニシリンの発見で、これで総ての病気の治療が出来、人類は病気から解放されると思われ、当時は艾が全く売れなかったそうです。そして第二次大戦後GHQは艾の販売を禁止しました。その理由は、大戦末期には捕虜に与える薬も無く、見るに見かねた看守が捕虜にお灸をすえてあげたためでした。西洋には、自分の肌を焼くような習慣はもちろん無く拷問の道具と認定されたためでした。
戦後は経済発展と共に徐々に販売も増えてきましたが、痕が残るなどの理由でまたお灸が衰退してきています。しかし、今は痕も残らないお灸も増えてきていますので、今一度お灸に目を向けてみるもいいかも知れません。
鍼灸師 村 田 雅 文